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シアター・アクセシビリティ・ネットワークの取り組みについて

14.09/18

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「らぷらすウィメンズネットワーク」による公開講演会『みんなで一緒に舞台を楽しもう~NPOシアター・アクセシビリティ・ネットワークの取り組みについて~』が9月11日(木)に、北沢タウンホール2階・第一集会室で行われた。「障害を持つ方も文化的な作品を享受する」為には、作品提供側には何が求められ、何が行われておらず、そして何を行うことが出来るのだろうか。(編集部:芳山徹)

情報保障とは?

NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(以下、TA-net)は、イギリスの充実したアクセシビリティ観劇環境を参考に、日本でも誰もが観劇サービスを受けられるような仕組み作りを目指して2012年に創立。日本ろう者劇団で俳優と制作として活動する廣川麻子さんが理事長を務め、障害を持つ当事者が主体となって活動している。

同公開講演会では、『情報保障』という言葉が幾度も用いられた。情報保障は、人間の「知る権利」を保障するもので、障害を持ち情報にアクセス出来ない人に向けて、代替手段を提供することを表している。今回の講演会では「手話通訳」と「要約筆記のスクリーン表示」が用いられたが、劇場ではその他、「字幕表示」や「音声ガイダンス」や「台本貸出」など、聴覚・視覚障害などそれぞれの障害に合わせて、情報保障の支援サービスが期待されている。

障害者の権利に関する条約

TA-net理事長の廣川さんは、イギリス留学中(1年間)60本観劇したうち、39本には何らかの情報保障の支援サービスが提供されていたという。そのイギリスでは、1995年に「障害者差別禁止法」が制定。劇場などで上演される作品に対し、その公演期間中に最低1回の支援サービスの実施が義務付けられ、劇場にはその担当者が置かれている。

翻って日本では、2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」に対して、批准し発効するに至るまでに今年の2月までの時間を有した。そして、その第30条「文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」の項目では、「障害者が、利用しやすい様式を通じて、文化的な作品を享受する機会を有すること」と明文化されており、はっきりと「映画、演劇その他の文化的な作品」を享受する権利を有することが表記されている。

支援サービスの「選択肢がある」ことが大事

TA-netでは、支援サービスのある公演情報を「アクセシビリティ公演情報サイト」やSNS上で発信している。また、観劇したい人のニーズを満たすべく、劇場側に対応策のコンサルテーションや相談の実施を行っている。観劇ツアーを実施し、支援サービスの利用者意見(例:字幕表示のスクリーンは見やすかったか?)を団体にフィードバックする活動なども行っているという。昨年には、演劇実験室◎万有引力との協働で、再構成台本の制作および貸出、バリアフリー公演の啓発、受付対応などを実施した。

台本の貸出/再構成台本について
聴覚障害者向けの支援として「台本貸出」へのニーズは高いのだが、公的なサービスとして台本を貸し出すことに積極的な団体は少ないという。また、いわゆる(役者向けの)台本では「女1ってどの人?」、「次にしゃべる人は舞台上のどの人?」などが分からず、情報保障の支援としては不十分なので、例えばセリフの横に、それを発する役者の写真を貼り付けるなど《再構成》を行うのだという。

 
質疑応答では、劇団民藝の制作部、鈴木みもろさんより「民藝では、視覚障害者向けの対応は以前より行っているが、聴覚障害者向けの支援サービスは実施できていない。具体的にはどのような対応が理想的なのでしょうか?」という疑問が寄せられた。

「ひとつの具体的な支援サービスに対して、障害を持つ方のそれぞれで好みが分かれるのが実情です。例えば先日、私(事務局長)と理事長が、スマートグラス上に字幕を表示するという実証実験に参加したのですが、私はタブレットに表示されるタイプの方が好みで、理事長はスマートグラスを良いと感じた、というように。ですので、障害を持つ方にとっても『選べる』ということが非常に大事なことだと考えています。またその為にも、利用者の意見を集約するモニター公演の実施なども、作品を提供する側の方々と一緒に行っていきたいと考えています」という石川絵理さん(TA-net事務局長)の回答をもって、講演会は終了した。


「視覚や聴覚などの障害を持つ方々が、当たり前のように劇場に足を運ぶ」状況をつくること。そのためのニーズを探り、複数の選択肢を用意して答えていくことのハードルは、現時点では非常に高いもののようにも感じられる。まずは出来ることから、TA-netのような明確な目的意識を持った団体との協同で、前向きに乗り越えていく道を探っていきたい、かつそれを個別の経験知に留めることなく、広く共有していきたいと、改めて感じた。


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